東京高等裁判所 昭和31年(う)2006号 判決
被告人 深井清
〔抄 録〕
一、論旨第一点について。
所論は、「本件資金の受け入れは、株主相互金融方式に基く株式代金の受け入れであり、預り金ではないにかかわらず、これを貸金業等の取締に関する法律違反罪に問擬した原判決は法律の適用を誤つたものである。」と主張する。そこで記録を調査すると、被告人が原判示東京証券融資株式会社の業務に関し、原判示の者たちから受け入れた金員は、表面上は同会社の株式の売却代金ということになつているが、右会社の資本金は、僅々五十万円に過ぎず、その株式の一部を譲渡するために原判示のように多額の金員を受け入れることはありえないのみならず、本件犯行当時増資の手続の行われていた事実の存しないこともまた明白であるから、それは新株式引受の金員として受け入れたものとも認めることはできないこと、同会社の使用人達においても、株式売却というようなことは全然念頭になく、客に対しても、専ら有利な投資たる預金として出金を勧誘していること、これに応じてその資金を出した人達も、一般の銀行預金利子よりもはるかに利廻りがよいという条件に眩惑され、日掛貯金もしくは一定期間の定期預金にする意思をもつて出金したものであつて、右会社の株主となるためその株式譲受の代金として出金した者は一人もいなかつたこと、などの事実が認められるが、以上の事実を総合して考えると、被告人のなした資金受入行為は、株主相互金融という名目を用いてはいるけれども、その実体は決して然らず、前記東京証券融資株式会社の営業資金を入手する手段として、不特定多数人から預り金をしたものと認定せざるをえないから、原判決がその挙示する証拠に基いて原判示事実を認定したうえ、これに原判示法令を適用したのは相当であつて、なんら法令適用の誤りは存しない。然るに、所論は、「被告人は前記東京証券融資株式会社の資金受け入れ方法については株主相互金融方式による旨を大蔵省関東財務局浦和支部に届出ており、かかる方法による資金の受入方法は、本件公訴事実の日時頃には全国に数百種類に及び、行政官庁の指導監督を受けていたのみならず、昭和二八年三月四日の衆議院大蔵委員会において政府当局は株主相互金融は貸金業を営む株式会社が株式によつて資金を得るのであるからこれを貸金業法第七条の預り金と断ずることはできないとし、また国税庁直税部長は株主相互金融の優待金は株式配当として課税の対象とする旨を明言し、所轄税務署もまたこれと歩調を同じくし、配当課税をしているくらいである。従つて仮に本件資金の受入行為が原判示法律に違反するとしても、被告人はこれについては行政官庁の指導によつて行つていたものであるから、被告人は全然違法の認識がなく、また違法であることを認識するについては期待可能性がなかつたものである。」と主張している。けれども被告人のなした資金の受入方法は、前認定のように、株主相互金融という名目を用いてはいるが、その実体は然らずして、預り金と認むべきものであるから、所論は既にその前提において失当であるといわなければならないのみならず、記録によれば被告人は前記東京証券融資株式会社を設立する以前には、右と同様の営業目的を有する東京証券金融株式会社熊谷出張所に勤務し、同会社のため資金の吸収に尽力していたことが明らかであるから、被告人としては本件の資金受け入れが法に触れることは十分知悉していたものと認むべく、従つて被告人がこれについて違法の認識がなかつたとは到底認めることはできないから、これに反する所論の採用し難いのは論をまたないところである。よつて本論旨は理由がない。
(花輪 山本 下関)